2020年07月07日(火)
JAM The World 月イチ宮台
青木理、宮台真司

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今月も非常に重要な話が出たので、以下、レポートを引用する。東京都知事選はどう見るべきだったのか。ネット上では投票への呼びかけが多く行われたが、実際は低投票率だったこと。ネット上の動きと結果に乖離があったこと。日本が三流国に沈みつつある今、現在置かれている状況をここまで読み取らなければならない。


■青木
宮台さんに対する質問のメールがいっぱい来ている。ホットなニュースということで都知事選のことで宮台さんの見解を聞きたいというメールが結構来ている。

「宮台さんの月イチ宮台を先月から心待ちにしていた。宮台先生に質問だが、都知事選で小池さんが当選した。小池都知事は公約の中で東京版CDCの創設や東京五輪2021の開幕式を短縮するなど掲げているが、この二点含めて、どれほど実行できるか疑問です。ご意見を聞きたい。」

「都知事選が終わり、小池さんが再選されたが、宮台先生から見た小池都知事も東京都の女帝になるのか。」

「何故、低投票率なったのか分析していただきたい。コロナで困った方が多いはずが、どうしてこんなに棄権が多く、いわゆる人権派とされる候補者が票が伸びなかったのか。」

いろんな質問もあったが、この質問も含めて都知事選はどう捉えているか


■宮台
いろいろなところでしゃべった通りだが、都知事選にはあまり興味なかった。

もちろん、投票には妻と一緒に行った。今回、妻と僕で入れる先が分かれた。いつも投票した後にどこに入れたか話すと大体一致しているが、今回は分かれた。片方が山本太郎、もう片方は宇都宮健児。

野党候補が真っ二つに分かれることは事前にわかっていた。小池知事が元々、女性人気が非常に高いこともわかっていた。さらに、「女帝」を含めて事前の本の人気、あるいは、インターネットでの小池さんに対するアンチの風がツイッター界隈など中心に非常に高かったということも事実だが、僕たちはそういう風景は何度も目にしていて、インターネット界隈はやはりボリューム、人口全体でいうと非常に小さいもの。

したがって、インターネットを見ない人もいっぱいいるし、今、テレビさえ見ない人もいっぱいいる。そういう中で元々、どういう風が吹いているのか。あるいは各候補者がどういう佇まいで、どういう政策を主張しているのか、関心を持ちようがない。そういう人が大勢いることがそもそもわかっている。

それともう一つ、非常に本質的なことだが、日本の政治文化はいわゆる安倍政権的なものに象徴されることだが、例えば若い人であればあるほど安倍政権の支持率が上がる。これは皆さん、どれくらい意識しているかわからないが、非常に単純に言うと「現状維持派」が多い。

例えば、安倍政権についてが一番わかりやすいが、安倍政権の下で非正規化が進んだので、逆に非正規雇用の雇用状況が良くなったし、安倍政権の下で最低賃金も上がった。それをベースにして、現状維持されているじゃん、現状は少し良くなっているじゃんと思うわけ。しかし、この人たちはインターネットなどにアクセスしないので、例えばヨーロッパに比べて最低賃金が2/3から半分であることとか、去年、個人別一人当たりGDPが韓国、イタリアに抜かれたこととか、アメリカの生産性に比べると日本人労働者の生産性は2/3あるいはそれ以下であること、次世代5G規格特許の数をいうと、中国は日本の7倍、アメリカ5倍、韓国でさえ3倍という状況であること。

知らないわけ。正確に言うと知らないのではなくて、基本的に安倍さん、首都・東京についていうと小池さんについて、現状維持派の人は安倍さんや小池さんにとって不利な情報を見たくない。これを社会心理学では認知的整合化と言う。都合のいいものだけを見て、都合の悪いものは見ないという所謂いいとこ取り、チェリーピッキング構造なことを言うが、こういう有権者が非常に多いというのは過去の何回の選挙でわかっている。

それは山本太郎さんが頑張ったとかでは変わらない。もちろん、政策的には宇都宮健児さんが東京都のことを一番よくわかっていると思ったし、山本太郎氏について言うと、参戦が遅れたのは意図的だと思っている。つまり、彼は国政に焦点があるので、間違って都知事になりたくなかったんだと思う。途中参戦して例えば宇都宮健児氏よりも票が上に行けば、国政でのヘゲモニー、影響力という点で有利に立てると踏んだと思う。

合理的な思考なので良し悪しは別として僕は理解できる。それで票が割れる。票が割れて、都知事にならないことが目的である可能性さえあった。全体の配置がわかっている以上、積極的な関心は持ちにくい。


■青木
これまで宮台さんと話してきたことだが、改めて興味があるので伺いたい。宮台さんが大学で若い学生たちに講義をずっとしていて、若い人たちの方が現状肯定というか、変化を避けるというような傾向が強いというのはもちろん見たいものだけ見て、見たくないものは見ないという傾向があるにせよ、そこそここれがハッピーがどうかは別として暮らせているので、とりあえずこれで変わらなくていいよ、と。

つまり、常々、宮台さんが仰る加速主義というか、いずれ破局的なところまで、破局的なところに近づかないとやっぱり変わっていかない、変わろうとするモチベーションというのは若い人たちだけじゃないと思うが湧いてこない、ある種の絶望感になってしまうのか。


■宮台
実はそんなに絶望していない。

理由が二つある。一つは歴史的に見て、そういう有権者の動きは既知のものだということ。もう一つは国があるいは東京都がマクロに変わらない前提になったとしても、生き方はどのみちいろいろ選べるということになる。

最初の方から言うと、ローザ・ルクセンブルグという有名な人がいて、スパルタクス・ブントを作ったので日本のブント・共産主義者同盟の元、雛形になったようなもの。あるいは、ルカーチ・ジェルジュ、アントニオ・グラムシとか皆、欧州マルクス主義者といって似たような主張を展開した。

それは資本主義が最も発達したマルクス理論からすると、矛盾が集積しているはずの場所で何故革命が起こらないのかという共通の問題意識を持った。彼らの共通する回答はこういうこと。誰もが現在の社会秩序が金持ちだけに貢献する特殊利害貢献的なものだということはよく知っている、と。しかし、他方で曲がりなりにも自分は暮らせていて、カツカツの生活でさえ生きている、と。革命が起こって、特殊利害貢献的な政権が倒れて特殊利害が失われたとしよう。しかし、それで、もしかして、今、勤めているこの会社、あるいは、会社の資本が傾いてしまえばオレは家族は仲間は一体どうなるんだと思う。

つまり、これを特殊利害共同利害矛盾問題と言っている。社会が特殊利害が貢献しているようであっても、他方でその秩序が存在することで、自分も貧者含めて誰もが食っているという共同利害もある。まったく同じことが日本でも生じていると思う。確かにこの秩序は特殊利害貢献的だ、と。この秩序が激変したときに、自分は、自分が勤めている会社は、あるいは、自分の今まで生きてきた延長線上でのプラットフォームがどうなるのかわからない。そうすると、不満足であっても、未来の未規定性、規定不可能のわけのわからなさを回避しようとするというのが起こりやすいということ。よく知られていることが起こっているだけなので、極めて日本が特殊だということはない。

ちなみに、一つだけ付け加えると、何故、若い人たちに安倍政権の支持率が高いのかというと、それは年長者に比べると正規雇用、あるいはストック貯金や株とか持っていない人が多いので将来不安が大きい。将来不安が大きい分、元々、世代的なメンタリティーが違わないとしても、共同利害を特殊利害よりも重視して、この秩序が変わっちゃ困るなと風に起こりがちだと推定している。

もう一つのファクターは単純に言うと、社会が荒野になったときこそ、実はその自治体がどうするのか。例えば和歌山県知事が国の方針とはまったく違うコロナ対策をして、いち早く病院の再開にこぎつけたとか知られているが、国がダメなら自治体の頑張りどころ。あるいは自治体がダメならもっと小さな自治体や仲間集団の頑張りどころ。仲間集団がダメなら家族の頑張りどころ。家族がダメなら最後に自分の頑張りどころが来るということ。そういう意味で、政府ガバナンスやオートノミーと言うが、依存も大概にして、自分たちで自分のことを決める気概を持つチャンスとして、その意味で言うとシステムへの過剰依存を脱して、自分たちで自分たちがそもそも何に依存しているのか。

例えば、災害が起きたときに、熊本を中心に九州で大変なことになっているが、災害でシステムが止まったときに自分たちはどのように生きていけるのか想像すること。日本人がまったくやってきていない。そういう非常にまずい状況にある。しかも、これから災害がどんどん起こっていくことになると、国や東京都レベルのマクロな社会ユニットがダメになっていくときこそ、僕たちが自分たちの振る舞い方を反省した上で自覚的に協同的に選択できるチャンスとして利用できるということがある。
その二つの要素があるので、決して暗くはなっていない。


■青木
今の安倍政権の有り様、小池都政の有り様というのが悪政かそうではないのか立場によって違うと思うが、宮台さんの問題意識もそうだろうし、僕の問題意識もそうだが、このまま行くとまずいよね、と。いずれ非常に危機的な局面というのが、コロナで相当危機的な局面を迎えそうになったわけだが、センチメンタルな話をしてもしょうがないが、それでもなんとか暮らせてそれなりに表現の自由もあるしなぁみたいなのと比べると、話が飛ぶが、香港。

日本でもおなじみになった周庭さんとか、民主化運動、とりあえずまずいからやめますという形で、切羽詰まる形であそこまで露骨に強権を発動されて押しつぶされていくという様をすぐ近くの同じアジア圏で眼前にしてしまうと、やっぱり、あまりに強権の下でこそ輝く運動と潰された運動と同じアジアにある国である日本の生ぬるいこう沈滞というか、ある意味で対照的である意味でこっちが幸せかどうか疑問に思うが、香港の今回の情勢も含めてどう捉えるか。


■宮台
数年前に中国の大きいな都市、天津とか上海とか北京とかに行って、それぞれの地域の北京社会科学院とかでいろいろな人たちと話してきて思ったこと。実は一番印象的だったことは僕はクリスチャンなのでキリスト教の布教が禁止されている中国でのクリスチャンの在り方だが、基本は個人のマンションなどにクリスチャンたちが集まって、ミサこそはしないが、聖書の読書会ということでお互いの信仰を確かめ合うということをやっている。話している内容は日本の普通の教会の信者が話しているレベルよりもはるかに高度で真剣。

これは青木さんが仰った通り。抑圧されることで燃え上がるものは三つある。一つ目は政治的な情念。二つ目は宗教的な情念。三つ目は性愛的な情念。

それはまったく自由が保障されていて、何も問題がないというフラットな社会の平面の上では我々は自分がどっちに向いているか計るコンパスがない。だから、その意味でいうと香港の政治運動が表だった行動が弾圧されたとしても、今の中国の各大都市のクリスチャンたちのように地下で自分たちの志を確かめ合う、それだけのコミュナリティでも構わない。それが続くのかどうか。

例えば、日本では1969年から70年にかけて学園闘争が終わったが、その後、あっという間にオールクライシスになったという背景もあって、皆、リクルートカットにチェンジして、どんどん会社に就職し、どんどん結婚し、ニューファミリーを持ち、団塊ジュニア世代を次々産んでいくということが起こった。ニューファミリーブームと言った。そういう風になってしまうかどうか。

日本の体たらくようには中国の宗教的な活動の現状を見るにつけてもならないだろうな、と。お互いの確からしさをむしろ弾圧によってコンパスを振ることで、維持可能なコンパスが存在することでむしろ続けられるだろうなと思う。その逆にいたのが日本。もう運動は無理なんだ、システムに適用して生きようやという風には中国や香港の活動していた方はならないんじゃないか、と。

そうすると、世界は変えられなくても、志を同じくする者たち、敏感な者たち、不正、正しくないことに憤る、あるいは、愛に生きる者たち、そうした者たちの連帯が続けられる可能性がある。むしろ、それができれば表だった政治的改革運動や政府転覆運動のようなものがなくなったりしても、それでがっかりするのは外から見る者たちのお門違いじゃないのかなと確信している。


■青木
香港をある種飲み込みつつある中国という国家体制の残酷さとか残忍さみたいなことばかり注目されるが、そういう中に飲み込まれながらもある種の情念やある種の宗教的な信念だったりで結びつく人がいて、かつ、経済的に見ると技術革新的な面でいうとおそらくこれは共産主義体制、一党独裁体制のもしかしたら利点であるかもしれないが、ものすごい勢いで技術革新あるいは発展を遂げる中国という国が横にいる、ある意味で産業面でも技術面でも人間の情念の面でも生ぬるい日本よりも、元々、当たり前だけど、中国の方が圧倒的でダイナミックで、内部では面白いものがいっぱいあるかもしれない。


■宮台
それは仰る通り。

日本は経済的指標から見ると終わっていて、最低賃金はヨーロッパの2/3から半分で、個人別GDP、あるいは生産性、次世代5G規格特許など。

とにかく、日本の経済にはもう明日がない。しかも、我々の実質所得が最も高かったのは97年でもう23年前。この間、GDPが下がり続けていた国はOECD加盟国では日本だけ。日本は二流どころか三流国になることは実は確定している。

どうしてそうなっているかというと、2011年の原発事故直後以降の日本の電力会社、経産省官僚、あるいは電力会社筆頭とする地域経済団体の動きで散々見た。

日本以外の国々はというと、ドイツのメルケル首相の宣言が象徴的に理解することができる。それまで2030年代まで原発を運転しようと思っていたのが、2020年代にすべてやめると宣言してすべてやめてしまった。日本は9基の原発を外に売ると言っていたが、すべて頓挫した。ざまあ見ろだと思わないか。東芝の不正経理見逃し事件も原発利権と密接に関連していると多くの人が推測していてそうだと思うが、すべてざまあ見ろ、だ。

つまり、既得権益に縛りついているが故に産業構造改革ができず生産性は上がらない。大企業もそうだし、各地域の経済も全部そう。

僕はそこをスイス時計業組合を出すが、日本のデジタルクォーツにやられたので、投資家によってプランティングをしてもらい、スウォッチというブランドを作る。その結果、一挙に盛り返すということをやった。ルイヴィトン系列も見たようなことをやった。そういう風にして、地域のプランティング・・・これを地域の結束によって可能にした上で生産性を上げていくという工夫。地銀の一部がそれをやっているとは言え、まったく日本の動きはお粗末。

だから、どこからどこまで、隅から隅まで、どこを切っても金太郎飴の安倍の顔と言っているが、現状維持的、既得権益依存的なメンタリティーは変わらない。それはさっき言った通り、見たいものしか見ていないから。

日本以外の国でいわゆるブーミングというか盛り上がりつつあるのか、どういう国がどういう理由で浮き沈みつつあるのか分析しない。アメリカのPR会社エデルマンが調べている通り、先進各国の経営幹部、経営委員会で参加しているメンバー(日本の取締役会)は日本におけるリスペクトが一番低い。

その理由もはっきりしていて、要は日本の経営幹部は既得権益にすがってケツを舐めるヤツしか上がってこないとみんな知っているから。斬新なイノベーションによって新しいブランドを立ち上げ、人々を勇気づけながら新しい方向、リスキーでありながらそこに人々を連れていくみたいな経営幹部は日本では絶対にトップになれない。


■青木
だから、そういう過程の中でこの都知事も起きた小さな出来事、と。