2022年02月05日(土) KBCシネマ(福岡県福岡市)
映画「香川1区」舞台挨拶
出演: 大島新 ドキュメンタリー監督
■舞台挨拶
2時間36分という長い映画になったが、最初に編集したときは4時間11分あった。そういう映画もなくはない。ただ、観る人の間口を狭めてしまうということで、なんとか2時間くらいにしたいと思って内容をギュッと凝縮したが、そこまで短くすることができず、2時間半を越える映画となった。どうしてそうなったのかは香川1区の選挙戦はこれでもかというくらい毎日毎日いろいろなことが起こったためで、まさにドキュメンタリー的な展開があったため。
選挙というものは人間を追い詰めて、人間を剥き出しにする。そういう様をまざまざと目の当たりにした。前作「なぜ君は総理大臣になれないのか」の主人公であった小川淳也さんとは18年間の付き合いになる。小川さん派この選挙にかける思いがすごく強くて、その後に立憲民主党の代表選でも出たが、そのためにはどうしても小選挙区では勝ちたいという想いがあって、日本維新の会から候補者が出たときは取り乱してしまった。田崎史郎さんとのバトルがあったが、感情的になった小川さんの姿は初めて見た。選挙はこれだけ人を追い詰めるということをまざまざと見た。
平井卓也さんとは夏に初めてお会いして東京の議員会館でインタビューさせてもらった。大人の余裕の政治家で、映画のことも褒めてくれた。タイトルもキャッチーでいいじゃないかとも言ってくれた。それがわずか二ヶ月経つと「PR映画だ。許せん。」ということになった。選挙の情勢が厳しくなって、最初は平井さんもデジタル庁など自分の功績のことを話していたが、段々、立憲共産党でいいのかと相手の候補を批判するネガティブキャンペーンという形になって、映画も批判の対象になっていった。それに伴って、私たちも当事者のようになっていって、批判の対象になったり、追っ払われたり、撮影していた女性のプロデューサーが脅されたり、いろいろなことが起きた。
前作「なぜ君は総理大臣になれないのか」は小川淳也さんの人物ドキュメンタリーとして作ったが、本作は続編と言いながらも「香川1区」という敢えて無機質なタイトルを付けた。選挙を広い視点で見つめたいという思いと自民党の強さ、小川さんが戦っている相手の強さを知りたいという思いがあって、こういう映画のタイトルにした。
今回、自民党の平井さん、その支持者の声も聞こうと思って取材をした。自民党の強さでいうと、なるほどと思うこともあれば、そういうカラクリはあまり知りたくなかったなということもあった。期日前投票を会社に言われて行い、それを自分の名前でサインするみたいなことをしていた。高松では噂としてあったが本当に起こっていて、映画を公開してからもツイッターなどで香川県民の方々から昔はあれをやらされていたという声が届いたりした。書いている人も決して悪気はない。小川さんのところに草の根的に集まって祈るような気持ちで投じた一票も、会社に言われて投票した一票も数として同じ一票。本当に民主主義とは何なのだろうと強く思った瞬間でもおった。香川1区の場合はたまたま候補者がキャラクターに特徴があって目立つが、日本中の選挙区でもしかしたら似たような構図、同じ構図があって勝敗が決まるのではという思いもあって、これでいいのだろうかと感じつつの取材だった。
撮影、編集含めて制作の過程でメインの被写体に小川さんがいるが、実際問題としてこの映画の主役は有権者なのではないのかと思うようになった。小川さんを勝たせたことも集まってきた支持者、ボランティアの熱が本当にすごかったためで、それで勝てたと思う。一方、自民党の平井さんに投票する方にもいろいろな理由があり、それぞれなりの合理性がある。それが日本の縮図みたいな思いがした。
映画のポスターのデザインは目が回りそうだとよく言われるが、この模様はモザイク状の人間を表していて、青が小川淳也さんの色、赤が平井卓也さんの色、緑が町川順子さんの色で、それぞれの得票率に合わせた面積になっている。有権者がモザイク状になっているという意図を込めたデザイン。普通は候補者の顔を三人並べるが、敢えてそういうデザインにした。
前作の「なぜ君は総理大臣になれないのか」も多くの方の口コミで育ててもらった。今回の映画も気に入ってSNSで広げていただけたらうれしく思う。
■質問
本作がエンターテインメントに仕上がったのは撮影するときに確信を持って撮影したからなのか。それとも、結果として思った以上にエンターテインメントとして仕上がったのか。
■回答
テーマ、社会的な意義などはすごい大事なことだが、それ以前に映画作品として、エンターテインメントとして面白いものを作りたいと常々思っている。その努力はしている。ただ、ドキュメンタリーなので、私の思いや力量だけでできるかというとそれはできない。確信を持って撮影できることはなかなかないが、基本的に選挙というものはドラマがある。今回、映画がある程度うまくいくのじゃないかと思ったのは、最初に平井さんがインタビューを受けてくれるということをOKしくれたときで、前作と違う厚みが出ると思った。その後の展開はまったく予想をしていなかった。期待を良い意味で裏切ってくれた。毎日毎日、面白いことが起きるとは思っていなかった。途中から特に平井さんからPR映画だと言われ始めてから、この方々は頼んでもいないのになんて映画を盛り上げてくれるのだろうかという感じになっていった。小川さんの陣営もご家族含めて、特に二人の娘さんに関してはなかなかあんなお嬢さんはいないと思う。元々エンターテインメントにしたいという意思があったが、予想を遥かに上回る状況が生まれた。
■質問
何か映画に出せなかったまずいシーンはあったか。
■回答
これはまずいと思って切ったところはまったくない。逆にそういうところはなるべく出そうとしていた。実際、最初の編集で4時間にもなったので落としたところはシーン自体を落としたものもあれば、入っているシーンを短くしたものもある。いくつか印象的なもので言うと、夏に中村喜四郎さんという大物代議士が小川さんの応援に来た。このシーンは断腸の思いでまるまる落とした。取材嫌いで知られる中村喜四郎さんなので貴重なものだったが、全体の構成の中で入りづらかった。立憲民主党の枝野幸男、岡田克也の応援演説も撮ってはいるが、お決まりの選挙でよくある絵なので外した。辻本清美が来たシーンもすごく良かったが外した。平井さんにも麻生太郎、甘利明が応援演説に来たが、そのシーンも落とした。選挙戦の後半に小川さんの事務所でライターさんと小泉今日子さんが行っていたインスタライブも撮っていたがカットした。小泉今日子さんが映ってはいけないという理由ではない。選挙戦の緊迫した渦中で、岸田総理の応援演説に行って受付で追っ払われた日に小川事務所に行ったら小泉さんたちがインスタライブを行っていた。さっきまで殺伐とした空気の中で今度は真逆のシーンだったので、映画をどう見ていいのかわからなくなるので、そこもカットした。
■質問
小川事務所で若い世代が「楽しい」と言っていたが、どう感じたか。
■回答
小川さん陣営では18年前からずっと支援している方もいて、そのような方は大体70代になっている。若いと言っても40歳前後くらいだが、今回の選挙からその世代が入ってすごく力になった昔から応援しているボランティアともいい関係で、すごく補い合っていた。「楽しい」という言葉によって、今まで選挙に関心がなかった人たちが入りやすくなるということも現実にはあると思う。そういう言葉を使えば入ってきやすいものだと私は感じていて、これも一つの新しい選挙の新しいやり方だと思った。
■質問
日々、目の前に生活でいっぱいいっぱいで将来のことを考える余裕がない人も多い。このドキュメンタリー映画を通じて、選挙に興味が持てるということは素晴らしいことだと思う。
■回答
選挙には行ってもしょうがないと思うのも当然だろうなと思う。ただ、投票率の問題はどういうことを引き起こすかというと一つの例が以下。政権交代が起きた民主党が勝ったときは70%近かったが、安倍政権になってから投票率は50数%が続いており国政選挙は自民党が勝っている。投票率とは別に絶対得票率という数字があって、自民党に全有権者の中で自民党に入れた人の割合は25%くらい。つまり、国民の1/4の信任であれだけ最強政権と言われた政権が続いていた。そこで反対があっても押し切って通した法案もある。例えば2015年の安保法制など一つの象徴的な法案のだが、国会を二分するような議論があった。当時の自公政権が選挙でずっと勝っていて、議席を獲得していたから成立させられた法案だった。それも絶対得票率25%の人の信任で決まっているという現状があるので、そこをどう思うかということだと思う。急に選挙に行けと言われても困るというのが現状だと思うので、このドキュメンタリー映画を通して友達とときどき話す機会があればと思っている。
■質問
今回の選挙戦で、小川さんに対する周りの雰囲気が変わったと思う。人の心が変わったきっかけはどこか。
■回答
映画が一つのきっかけになったところもあると思う。だから、平井さんが怒るのも無理はないが、PR映画のつもりで作ったわけではない。結果として小川さんの知名度が上がり、全国的な期待値が上がったことはあった。きっかけの一つになったと思うが実際に生の小川さんと触れてがっかりしたら帰っていたはず。小川さんには間違いなく魅力はある。では、その魅力は何なのか。対話力、ちゃんと話す力があると思う。香川県でも青空集会という対話集会を行って、いろいろな方の意見を聞いてそれに対してちゃんと答えていくことを行っていた。立憲民主党の代表選のときも有楽町のところで聴衆の前で質疑応答をやるわけだが、一旦時間が終わって、その後、並んで話を聞きたいという人にも寒空で一時間でも一人ずつ聞いて答えていた。他の立憲民主党の代議士もその姿を見て度肝を抜いていた。有権者とどこまで本気に向き合えるのかということが大きい。正直、選挙というのは私から見てもいろいろな人が来る。中には政治好きで変なことを言ってくる人もいて想像つくと思う。全員等しく時間を取るというのは難しい。それでも小川さんはちゃんと向き合うということをやっている方。それがボランティアの方も含めて支持者の熱につながったと感じている。
■質問
ドキュメンタリー映画を撮るという行為の中で「自分」が入っていくるのか。また、影響を受けた作品を教えてほしい。
■回答
ドキュメンタリー映画は監督の作風がすごく影響する。まったく取材者、監督がまるでいないかのように作られたドキュメンタリーもある。例えば、フレデリック・ワイズマン監督、日本で言えば想田和弘監督。監督がいないかのような存在感を消して、撮っているドキュメンタリー映画もある。それも一つの手法。逆だと、マイケル・ムーアで介入していく、どんどん入っていく。これは芸風で好み。ただ、前者の場合にそれがありのままの事実をとらえているというように見えるとしたら、それはそれでおかしいというのが自分の考え。何故かと言うと、カメラがある時点ですでに異常な状態でありのままの日常はないと思っている。自分は見て切り取った事実であるということを示したいタイプで、割りと「自分」が入っている。どんなに気配を消しても、絶対、作り手の意図というものがある。その意味で言うと「自分が介入して見ている現実を伝えている」ということを伝えるのがフェアだと思っている。映画「香川1区」の場合は自分が出るということをさらに越えてしまったのは狙っていたわけではなく、平井さんの陣営からいろいろあったのでよりそうなってしまった。
私が影響を受けた作品は、生き方に影響したということで言えば森達也監督の映画「A」。これはオウム真理教の当時広報副部長だった荒木さんを中心に撮られたドキュメンタリー映画で、影響を受けたのは出来不出来よりも姿勢、スタンス。90年代にフジテレビにいて、入ったばかりにオウムの事件が起きて、テレビ局中が大騒ぎになっていた。そのときに森さんの映画「A」が1998年に公開された。作品としてどうこうよりも、これはテレビ局にいたら絶対に作れないという思いがすごくあった。要は普通のテレビマンたちが撮っている逆側にカメラがいて、オウムの中から撮っていた。それに対して批判もすごくあったし、今、観てみると違うやり方があったのかなと思うが、あの時期に映画「A」を観たときにこれは逆立ちをしてもできない、組織の大手メディアにいる人間では絶対に撮れないと感じた。それだけが理由ではないが会社を辞めて自由の立場でモノを作ろうと思わせてくれたきっかけという意味で森達也さんの映画「A」は外せない。
映画「香川1区」舞台挨拶
出演: 大島新 ドキュメンタリー監督
■舞台挨拶
2時間36分という長い映画になったが、最初に編集したときは4時間11分あった。そういう映画もなくはない。ただ、観る人の間口を狭めてしまうということで、なんとか2時間くらいにしたいと思って内容をギュッと凝縮したが、そこまで短くすることができず、2時間半を越える映画となった。どうしてそうなったのかは香川1区の選挙戦はこれでもかというくらい毎日毎日いろいろなことが起こったためで、まさにドキュメンタリー的な展開があったため。
選挙というものは人間を追い詰めて、人間を剥き出しにする。そういう様をまざまざと目の当たりにした。前作「なぜ君は総理大臣になれないのか」の主人公であった小川淳也さんとは18年間の付き合いになる。小川さん派この選挙にかける思いがすごく強くて、その後に立憲民主党の代表選でも出たが、そのためにはどうしても小選挙区では勝ちたいという想いがあって、日本維新の会から候補者が出たときは取り乱してしまった。田崎史郎さんとのバトルがあったが、感情的になった小川さんの姿は初めて見た。選挙はこれだけ人を追い詰めるということをまざまざと見た。
平井卓也さんとは夏に初めてお会いして東京の議員会館でインタビューさせてもらった。大人の余裕の政治家で、映画のことも褒めてくれた。タイトルもキャッチーでいいじゃないかとも言ってくれた。それがわずか二ヶ月経つと「PR映画だ。許せん。」ということになった。選挙の情勢が厳しくなって、最初は平井さんもデジタル庁など自分の功績のことを話していたが、段々、立憲共産党でいいのかと相手の候補を批判するネガティブキャンペーンという形になって、映画も批判の対象になっていった。それに伴って、私たちも当事者のようになっていって、批判の対象になったり、追っ払われたり、撮影していた女性のプロデューサーが脅されたり、いろいろなことが起きた。
前作「なぜ君は総理大臣になれないのか」は小川淳也さんの人物ドキュメンタリーとして作ったが、本作は続編と言いながらも「香川1区」という敢えて無機質なタイトルを付けた。選挙を広い視点で見つめたいという思いと自民党の強さ、小川さんが戦っている相手の強さを知りたいという思いがあって、こういう映画のタイトルにした。
今回、自民党の平井さん、その支持者の声も聞こうと思って取材をした。自民党の強さでいうと、なるほどと思うこともあれば、そういうカラクリはあまり知りたくなかったなということもあった。期日前投票を会社に言われて行い、それを自分の名前でサインするみたいなことをしていた。高松では噂としてあったが本当に起こっていて、映画を公開してからもツイッターなどで香川県民の方々から昔はあれをやらされていたという声が届いたりした。書いている人も決して悪気はない。小川さんのところに草の根的に集まって祈るような気持ちで投じた一票も、会社に言われて投票した一票も数として同じ一票。本当に民主主義とは何なのだろうと強く思った瞬間でもおった。香川1区の場合はたまたま候補者がキャラクターに特徴があって目立つが、日本中の選挙区でもしかしたら似たような構図、同じ構図があって勝敗が決まるのではという思いもあって、これでいいのだろうかと感じつつの取材だった。
撮影、編集含めて制作の過程でメインの被写体に小川さんがいるが、実際問題としてこの映画の主役は有権者なのではないのかと思うようになった。小川さんを勝たせたことも集まってきた支持者、ボランティアの熱が本当にすごかったためで、それで勝てたと思う。一方、自民党の平井さんに投票する方にもいろいろな理由があり、それぞれなりの合理性がある。それが日本の縮図みたいな思いがした。
映画のポスターのデザインは目が回りそうだとよく言われるが、この模様はモザイク状の人間を表していて、青が小川淳也さんの色、赤が平井卓也さんの色、緑が町川順子さんの色で、それぞれの得票率に合わせた面積になっている。有権者がモザイク状になっているという意図を込めたデザイン。普通は候補者の顔を三人並べるが、敢えてそういうデザインにした。
前作の「なぜ君は総理大臣になれないのか」も多くの方の口コミで育ててもらった。今回の映画も気に入ってSNSで広げていただけたらうれしく思う。
■質問
本作がエンターテインメントに仕上がったのは撮影するときに確信を持って撮影したからなのか。それとも、結果として思った以上にエンターテインメントとして仕上がったのか。
■回答
テーマ、社会的な意義などはすごい大事なことだが、それ以前に映画作品として、エンターテインメントとして面白いものを作りたいと常々思っている。その努力はしている。ただ、ドキュメンタリーなので、私の思いや力量だけでできるかというとそれはできない。確信を持って撮影できることはなかなかないが、基本的に選挙というものはドラマがある。今回、映画がある程度うまくいくのじゃないかと思ったのは、最初に平井さんがインタビューを受けてくれるということをOKしくれたときで、前作と違う厚みが出ると思った。その後の展開はまったく予想をしていなかった。期待を良い意味で裏切ってくれた。毎日毎日、面白いことが起きるとは思っていなかった。途中から特に平井さんからPR映画だと言われ始めてから、この方々は頼んでもいないのになんて映画を盛り上げてくれるのだろうかという感じになっていった。小川さんの陣営もご家族含めて、特に二人の娘さんに関してはなかなかあんなお嬢さんはいないと思う。元々エンターテインメントにしたいという意思があったが、予想を遥かに上回る状況が生まれた。
■質問
何か映画に出せなかったまずいシーンはあったか。
■回答
これはまずいと思って切ったところはまったくない。逆にそういうところはなるべく出そうとしていた。実際、最初の編集で4時間にもなったので落としたところはシーン自体を落としたものもあれば、入っているシーンを短くしたものもある。いくつか印象的なもので言うと、夏に中村喜四郎さんという大物代議士が小川さんの応援に来た。このシーンは断腸の思いでまるまる落とした。取材嫌いで知られる中村喜四郎さんなので貴重なものだったが、全体の構成の中で入りづらかった。立憲民主党の枝野幸男、岡田克也の応援演説も撮ってはいるが、お決まりの選挙でよくある絵なので外した。辻本清美が来たシーンもすごく良かったが外した。平井さんにも麻生太郎、甘利明が応援演説に来たが、そのシーンも落とした。選挙戦の後半に小川さんの事務所でライターさんと小泉今日子さんが行っていたインスタライブも撮っていたがカットした。小泉今日子さんが映ってはいけないという理由ではない。選挙戦の緊迫した渦中で、岸田総理の応援演説に行って受付で追っ払われた日に小川事務所に行ったら小泉さんたちがインスタライブを行っていた。さっきまで殺伐とした空気の中で今度は真逆のシーンだったので、映画をどう見ていいのかわからなくなるので、そこもカットした。
■質問
小川事務所で若い世代が「楽しい」と言っていたが、どう感じたか。
■回答
小川さん陣営では18年前からずっと支援している方もいて、そのような方は大体70代になっている。若いと言っても40歳前後くらいだが、今回の選挙からその世代が入ってすごく力になった昔から応援しているボランティアともいい関係で、すごく補い合っていた。「楽しい」という言葉によって、今まで選挙に関心がなかった人たちが入りやすくなるということも現実にはあると思う。そういう言葉を使えば入ってきやすいものだと私は感じていて、これも一つの新しい選挙の新しいやり方だと思った。
■質問
日々、目の前に生活でいっぱいいっぱいで将来のことを考える余裕がない人も多い。このドキュメンタリー映画を通じて、選挙に興味が持てるということは素晴らしいことだと思う。
■回答
選挙には行ってもしょうがないと思うのも当然だろうなと思う。ただ、投票率の問題はどういうことを引き起こすかというと一つの例が以下。政権交代が起きた民主党が勝ったときは70%近かったが、安倍政権になってから投票率は50数%が続いており国政選挙は自民党が勝っている。投票率とは別に絶対得票率という数字があって、自民党に全有権者の中で自民党に入れた人の割合は25%くらい。つまり、国民の1/4の信任であれだけ最強政権と言われた政権が続いていた。そこで反対があっても押し切って通した法案もある。例えば2015年の安保法制など一つの象徴的な法案のだが、国会を二分するような議論があった。当時の自公政権が選挙でずっと勝っていて、議席を獲得していたから成立させられた法案だった。それも絶対得票率25%の人の信任で決まっているという現状があるので、そこをどう思うかということだと思う。急に選挙に行けと言われても困るというのが現状だと思うので、このドキュメンタリー映画を通して友達とときどき話す機会があればと思っている。
■質問
今回の選挙戦で、小川さんに対する周りの雰囲気が変わったと思う。人の心が変わったきっかけはどこか。
■回答
映画が一つのきっかけになったところもあると思う。だから、平井さんが怒るのも無理はないが、PR映画のつもりで作ったわけではない。結果として小川さんの知名度が上がり、全国的な期待値が上がったことはあった。きっかけの一つになったと思うが実際に生の小川さんと触れてがっかりしたら帰っていたはず。小川さんには間違いなく魅力はある。では、その魅力は何なのか。対話力、ちゃんと話す力があると思う。香川県でも青空集会という対話集会を行って、いろいろな方の意見を聞いてそれに対してちゃんと答えていくことを行っていた。立憲民主党の代表選のときも有楽町のところで聴衆の前で質疑応答をやるわけだが、一旦時間が終わって、その後、並んで話を聞きたいという人にも寒空で一時間でも一人ずつ聞いて答えていた。他の立憲民主党の代議士もその姿を見て度肝を抜いていた。有権者とどこまで本気に向き合えるのかということが大きい。正直、選挙というのは私から見てもいろいろな人が来る。中には政治好きで変なことを言ってくる人もいて想像つくと思う。全員等しく時間を取るというのは難しい。それでも小川さんはちゃんと向き合うということをやっている方。それがボランティアの方も含めて支持者の熱につながったと感じている。
■質問
ドキュメンタリー映画を撮るという行為の中で「自分」が入っていくるのか。また、影響を受けた作品を教えてほしい。
■回答
ドキュメンタリー映画は監督の作風がすごく影響する。まったく取材者、監督がまるでいないかのように作られたドキュメンタリーもある。例えば、フレデリック・ワイズマン監督、日本で言えば想田和弘監督。監督がいないかのような存在感を消して、撮っているドキュメンタリー映画もある。それも一つの手法。逆だと、マイケル・ムーアで介入していく、どんどん入っていく。これは芸風で好み。ただ、前者の場合にそれがありのままの事実をとらえているというように見えるとしたら、それはそれでおかしいというのが自分の考え。何故かと言うと、カメラがある時点ですでに異常な状態でありのままの日常はないと思っている。自分は見て切り取った事実であるということを示したいタイプで、割りと「自分」が入っている。どんなに気配を消しても、絶対、作り手の意図というものがある。その意味で言うと「自分が介入して見ている現実を伝えている」ということを伝えるのがフェアだと思っている。映画「香川1区」の場合は自分が出るということをさらに越えてしまったのは狙っていたわけではなく、平井さんの陣営からいろいろあったのでよりそうなってしまった。
私が影響を受けた作品は、生き方に影響したということで言えば森達也監督の映画「A」。これはオウム真理教の当時広報副部長だった荒木さんを中心に撮られたドキュメンタリー映画で、影響を受けたのは出来不出来よりも姿勢、スタンス。90年代にフジテレビにいて、入ったばかりにオウムの事件が起きて、テレビ局中が大騒ぎになっていた。そのときに森さんの映画「A」が1998年に公開された。作品としてどうこうよりも、これはテレビ局にいたら絶対に作れないという思いがすごくあった。要は普通のテレビマンたちが撮っている逆側にカメラがいて、オウムの中から撮っていた。それに対して批判もすごくあったし、今、観てみると違うやり方があったのかなと思うが、あの時期に映画「A」を観たときにこれは逆立ちをしてもできない、組織の大手メディアにいる人間では絶対に撮れないと感じた。それだけが理由ではないが会社を辞めて自由の立場でモノを作ろうと思わせてくれたきっかけという意味で森達也さんの映画「A」は外せない。